2018年9月、ブラックマジックデザイン社よりRAW動画の新規格、BrackmagikRAW(BMRAW)が発表されました!
発表当時はURSAMiniPro4.6Kのみの導入でしたが、2019年3月に待望のBMPCC4K(ポケットシネマカメラにも対応しました。
BMPCC4KにBMRAWを追加するには、【Brackmagic6.2アップデート】で可能です!
今回は動画の「RAW」とはどういうものなのか、そして新規格のBMRAWにも触れて行きたいと思います。
1.RAW動画とは?
そもそも、RAW動画とはどういうものなのでしょう?
「RAW」という単語に絞れば、最も短に聞く単語としては写真のRAW設定かと思います。
RAWとは英単語で「生」という意味です。
そしてその意味の通り、RAWとは端的に言えばレンズから入った情報がカメラボディー内のセンサーを通し、メディアに入るまでの回路で処理がされていないままのデータのことを言います。
一般的に普及しているコーデック、H.264、H.265、MPEG-4、AppleProResなどのデータは、センサーを通したあと、メディアに至るまでの回路でそれぞれのコーデックで決められた処理がなされるため、その段階で「生」のデータではなくなります。
簡単にですが、画像にするとこのような感じです。
物体が見える原理は人もカメラも同じく、被写体に反射した光が目やセンサーに入ることで認識しています。当然、光源が全くない「暗闇」の状態だと何も見ることはできません。
光がセンサー内に入り、電気信号に変換されます。そしてRGB、つまり光の三原色として分解されます。
この段階がRAWデータと呼ばれるもので、RAWデータには元の被写体の色は含まれていません。
DaVinciResolveやPremireProなどでグレーディングを行う際、波形スコープなどを見た時にはRGBで表示されているかと思います。
RAWそのままのデータは、色味が浅い「眠い」映像となっているので、通常、カメラ内で行われる復元作業を自らの手で行う必要があります。
復元作業にはカラーコレクションとカラーグレーディングの二段階があります。カラーコレクションは映像作品全体の色を整えたり、スキントーン(肌の色)を整える「補正」の役割があり、一方カラーグレーディングにはフィルムのような感じを出したり、夕日の色を狙った演出に合うように色を変えたりする「演色」と呼ばれる役割があります。
ここまでご説明させて頂いた通り、RAWはカメラ内での処理がなされる前のデータであるため、ホワイトバランスや色の処理を後から行えるため、作品毎に狙った色にすることが可能であったり、撮影中に露出のミスをしてしまい空が飛んでしまった場合などでも、飛んでいない状態に戻すことが可能だったりと、非常に便利なコーデックとなっています。
2.RAWのメリット、デメリットって?
そんなRAW動画ですが、メリットの他に、デメリットも存在します。
まずはメリットから!
- ホワイトバランスやISOを後から変えることが出来る!
- 情報量が多い為、作品に沿った色を作り込むことが出来る!
お次はデメリットです。
- 圧縮前のデータの為、データ量が重い
- 必ず色の復元を行わなければいけない為、工程数が増え、時間がかかる。
- メーカー毎にRAWのフォーマットが違う為、扱いが面倒
こんな所でしょうか。メリットとデメリットがはっきりしているので、仕事内容、作品によって柔軟に選択していきたいですね。
次はメリットとデメリットについて、さらに詳しくご紹介させて頂きます。
▪︎ホワイトバランスやISOを後から変える事が出来る!
カメラ内での圧縮処理をしていない為、RAW動画には多くの情報が残っています。
例えばDaVinciResolveでは、カラーページに行くと下記のような項目があります。
ホワイトバランス、色温度、ティント、露出など処理後の映像では変える事が出来ない項目を、RAWで撮影すれば後で変更する事が可能です。
ちなみに、RAW以外のデータではこの項目はホワイトアウトしており、変更する事ができません。
▪︎情報量が多い為、作品に沿った色を作り込む事が出来る!
『情報量が多い』と表していますが、さて、何の情報量が多いのでしょうか?
これはもちろん、ISOやホワイトバランスのデータを内蔵していることも含まれますが、ここでは『色深度(bit深度)』についてお話ししていきたいと思います。
カメラの設定を触っている時、「8bit」「10bit」「12bit」などの表示を見かけた事がありませんか?
これは1ピクセルあたりに割り当てるデータ量のことです。
・・・この説明だとあまりピンとこないかもしれませんので、画像で説明していきたいと思います。
8bitは2の8乗、つまり256階調の情報量を持っており、10bitは2の10乗、1024階調の情報量を持っています。
例えばこれを白から黒のグラデーションで表現するとこうなります。
色深度が多ければ多いほど階調表現が豊かになり、色の変化が滑らかになります。
RAW以外にもLogというものがあり、これは圧縮された映像のデータ量はそのままに、情報量を多く収録するフォーマットのことです。
まずは8bitで撮影したデータと10bitで撮影したデータをそれぞれグレーディングし、比べてみます。
今回はわかりやすく見えるように、空を映しています。
上の画像は8bit、下の画像は10bitで撮影したデータです。
8bitで撮ったものは、グラデーションの部分で情報が足りておらず、滲んだような状態(これをバンディングと言います)になっています。
対して10bitで撮ったものは多少のバンディングは見えますが、8bitのものと比べて階調表現が豊かです。
8bitと10bitには4倍の情報量の違いがあり、さらにRAWの12bitともなると、4096階調となり、8bitと比べると16倍、10bitと比べるとさらに4倍の情報量を保持しています。
ビット深度が多いと、ナイト撮影である程度暗くても暗い部分の情報量を保持している為、色を出す事も可能です。
このように、色深度が多ければ作品の色を作り込む事が出来るのはもちろん、バンディング対策にもなる為、大きなメリットとなります。
ん?じゃあLogとRAWの違いとは?、、、っとなると思いますが、脱線してしまうので今回はRAWに絞ってお話させて頂きます。
▪︎圧縮前のデータの為、データ量が重い、、、
ここからはRAW映像のデメリットについてお話ししていきます。
ここで初心に帰りますが、「動画」とは「写真」の連続で、映画であれば1秒間に24枚、バラエティーなどであれば30枚、スポーツなどであれば60枚といったように、1秒間に写真を何枚も出す事で動画は構成されています。
まず、写真のJPEGとRAWのデータ量を比べてみましょう。
参考データはCanonの5DMkⅢにて、jpegの最大画質とRAWのデータとなっています。
このように、JpegとRAWでこれだけの差が出ます。
つまり、写真の連続である動画は、この差がもっと開くと言う事。
非圧縮RAWのコーデックでお馴染み(?)のCinemaDNGは、連番ファイル(ショットファイルを開いたら、画像がフレームごとに並んでます。)と呼ばれる形式で、まぁ、これがかなり重いです。
その昔、私はBMPC4Kというカメラを持っていまして、CinemaDNG収録で4K24p(1秒に24枚)で撮影した場合、480GBでも25分ぐらいしか撮影出来なかった。。。
…とまぁ、バックアップが大変なのは目に見えており、少し前までは予算がかなり潤沢でないとRAWで動画撮影なんかできなかった訳です。カメラ本体も高かったですしね。
動画以外でもRAW動画を撮影できるカメラ(前述したBMPC4Kは特にその一例です)を使用すれば一枚一枚がRAWの写真みたいなものなので、連番ファイルを開いて良いショットを選び、 Photoshopで現像するという写真家の方もいらっしゃったようです。
▪︎必ず色の復元を行わなければいけない為、工程数が増え、時間がかかる。
映像制作の中で避けては通れない、「編集」部分でのお話です。
映像制作は撮影時のメディア管理、バックアップ、中間コーデックの作成、オフライン編集、本編集、そしてグレーディング、、、映像に関するわかりやすい部分だけをあげてもこれだけあり、そこに音声や、場合によってはCG、VFXなどが入ってきます。
RAWやLogではなく、例えばスタンダードなどで撮影してしまえば、映像の色はそのメーカーが決めている色で吐き出されますが、そこでもカラーコレクションという、作品全体の色を整える作業が入ってきます。
そしてRAWやLogで撮影すると、この項目の中にカラーグレーディング工程が【ほぼ確実に】、追加されます。
なぜ確実かというと、ここまでの説明でも何度か画像を使用しましたが、RAWデータはRGBの情報なので、被写体の元々の色情報はRAWデータの中にはありません。
その為、コントラストが低く、彩度が低いといった眠い映像が吐き出される為、カラーコレクションを行なった後、カラーグレーディングへ、、、といった段階が必要になってくるのです。
RAWで撮影した動画は、通常こんな感じですが、、、(※筆者は若干アンダーに撮る方がグレーディングし易いと思ってるので、若干アンダーに撮ってます。)
全体の色調を整えた後、アンダーにシアンを混ぜたり周辺光量を落としたり、スキントーンを整えたりなどなど、カラーコレクションとカラーグレーディングを行うことで上記の映像になります。
ここの部分をフィルム時代の名残からか、「現像」と呼ぶ人が多くいます。私もその一人です。
確かに色やコントラスト、質感などを決めていく作業は現像とも呼べる気がします。
ちなみにカラーグレーディングを行わなかったからといって映像が書き出せなかったりするわけではありません。
作品によってはカラコレで十分なこともあります。ここが先ほど【ほぼ確実に】、といった理由です。
もともとたくさんの工程がある上で更にやることが増えるため、急ぎの現場だとなかなかここまで手が回らないことが多くあります。
▪︎メーカー毎にRAWのフォーマットが違う為、扱いが面倒
ここまで、CinemaDMGやBMRAWの話をしてきましたが、RAWはRAWじゃないの?と思う人もいるかと思います。
しかし、RAWにもメーカーによって種類があり、分かりにくい場合は、各社のLogの現状を思い描くとわかり易いかと思います。
SonyだとS-log、CanonのC-log、PanasonicだとV-logのように、各社でそれぞれlogのコーデックを作成しており、パラメーターが違います。
logと同じようにRAWも各社でコーデックが作成されており、パラメーターも同じく違います。
筆者は制作の中で編集業務のみを受けることもあり、各種RAWも触ってきました。
SONY RAWやCANON RAW、REDのRAWなど、、、logよりもややこしいのは、再生にも一手間かかる場合があったり、専用のドライバーをインストールしないといけない場合もあったりと、編集までの処理の仕方やグレーディングの際に気をつけることなどが各社で異なってきます。
編集業務のみを受けるということがなかったり、メーカーを一つに絞ることにしておけばあまり問題ないかもしれません。
簡単に言えば、SONYのカメラを使っていて急にCanonを使おうとすると出来る事や出来ない事の把握、操作を覚えるのに少し戸惑うのと同じような認識です。
▪︎そして新規格RAWへ!!注目する2種類のRAW。
さて、いよいよ本題です。
ここ一年でカメラ業界は怒涛の新機種発表&発売や新規格の搭載などを行なっています。
RAWも昨年から映像制作者を沸かせる発表がありました。
それが一番最初にお伝えしたBlackMagicDesign社のBMRAW、そしてもう一つがレコーダー機能搭載のモニターで有名なATOMOS社から発表されたProResRAWです。
BMRAWはBMDのカメラ、URSAMiniPro4.6KやBMPCC4Kに搭載されているコーデックです。
ProResRAWは通常のカメラ内蔵のRAWとは異なります。
というのも、Shogun InfelnoやSUMOなどのレコーダー自体に搭載されており、SonyやCanon、Panasonicの各メーカーのカメラからSDIなどで出力されるRAWデータをレコーダー側で受け止め、RAW形式をProResRAWという形式で統一してしまうものです。
▪︎Brackmagic RAWについて
ここまでRAW動画のメリットやデメリットをお伝えしてきました。
そしてこれからご紹介するBMRAWは、先ほど紹介したデメリットの一番大きい部分を解消してくれる最強コーデックになっています。
BMRAWは全部で6種類の収録形式が存在します。
その6種類は大きく分けると固定ビットレートと固定品質の二つのコーデックに分かれます。
▪︎固定ビットレート(ConstantBitrate)について
まずは固定ビットレート(ConstantBitrate)について。
固定ビットレートはその他のコーデックと同じ形式を取っています。
基本データレートを一定に保って収録するので、収録のために多くのデータが必要になる場面でも指定されたデータ内に収まるようにビットレートを調整し、圧縮をします。
収録品質の設定は3:1、5:1、8:1、12:1の4種類があり、これはRAWの圧縮比率になるので、3:1が一番大きいファイルとなります。
ここで問題なのが、例えばナイトでの撮影や色彩やグラデーション(朝焼け、夕日など)に特に注意をするべき撮影の際、多くのデータ量を撮影者が求めていたと仮定します。
しかし、固定ビットレートで収録をしていると指定されたデータ量に保とうとする為、データ量が欲しい場面も品質を落として収録される恐れがあります。
その為、撮影対象やロケ現場をしっかりと把握し、コーデックを選ぶ必要があります。
▪︎固定品質(Constant Quality)について
固定ビットレートはデータを抑えながらもRAW収録を行えるコーデックという認識をしておけば問題ないと思います。
そして撮影時により多くのデータ量が欲しい場合は、固定品質(Constant Quality)の収録方法をお勧めします。
可変ビットレートとも呼ばれているコーデックですが、こちらは先ほどの「一定を保つ」とは逆の収録形式となっており、必要な分だけファイルサイズを大きくして収録するコーデックとなっています。
データ上限がない為高いデータレートでエンコードされ、高品質な映像を保ちます。
こちらはQ0とQ5の2種類の収録品質となっており、Q0は最低限の量子化しか行われず、BMRAWの中では最も高品質な映像となります。
Q5は中程度の量子化を行なっていますが、こちらもQ0と比べるとディティールや色情報に差がありますが、それでもかなりの高品質コーデックとなっています。
BlackMagicRAWのテストムービーです。
夕陽を撮影し、手前に山がある場所で撮影を行なっています。
全6種類の収録形式全てで撮影比較をしているので、是非御覧ください。
▪︎BMRAWのその他の魅力!
BMRAWは何と言ってもデータが軽い!
これはRAW動画の革新的な部分です。
下記の画像を見るとわかりやすいですが、通常のRAWと比べてもビットレートが半分以下で済んでしまう為、かなりデータ量が軽くなります。
これによりRAWで一番お金のかかっていたメディア問題の二つが一気に解決します。
1つ目は編集用HDD/SSDの容量問題。
前述したように CinemaDMGRAWで撮影した4Kの映像だと、480GBで25分ほどしか撮影できませんでした。
つまり編集用メディアに持っていっても同じことなので、1TBなんてすぐ一杯になりますよね。
ビットレートが驚くほど高いので、RAIDを組んだりして対応していましたが、費用はかなり高くなります。そしてPCもそこそこのスペックのものが必要になります。これがBMRAWでは低い容量でこなせる為、容量も抑えられかなりの節約に繋がります。
2つ目は収録用メディアの問題。
通常、従来のRAWでは高速メディアでないと収録が出来ませんでした。
BMRAWのConstant QualityのQ0ぐらいだと同じようにSSDを使用しなければなりませんが、Constant Bitrate5:1ぐらいであればSDカードで収録することが可能になってきました。
もちろん推奨はC-FastやSSDでの収録ですが、一つの選択肢が増えるのは大きなメリットと言えるでしょう。
その他にはBlackMagicDesign社独自の第4世代カラーサイエンスを採用しており、スキントーンをかなり正確に再現することが可能になっています。
BMDのHPでサンプル映像データがダウンロード可能ですので、是非一度ダウンロードしてみてください。
一点だけ注意点があり、BMRAWは撮影後、そのままだと編集ソフト上では可能ですが、PC上で再生する事が出来ません。
解決するプレイヤーもBMDから出されており、上記のURLの下のほうにBrackmagic RAW Playerというがあるので、そちらをインストールしておいてください!
▪︎まとめ
筆者個人としてはBMRAW 最高!!の一括りでまとめたいです。
PanasonicのGH5Sも所有しておりますが、段々と活躍の場が減っています。
もちろんGH5Sも良いカメラなので、適材適所ではありますが。
BMRAWも公開されて4ヶ月ほど経った今、あちこちの現場で使用していますが、今の所文句は皆無です。
むしろBMPCC4K(ポケットシネマカメラ4K)の2台目を購入したいなぁという所存です。
DavinchiResolveもどんどんアップデートされており、16の正式版も目の前!
BMPCC4Kもようやく在庫が安定し始めたところですので、みなさま是非一度手にとってみてください。
ちなみについ先日公開されたMVです。
BMPCC4KとRONIN-S、TILTAのNucleus-Nで撮影を行い、BMRAWで収録をしております。
編集はDaVinciResolve16!